きみは硝子のゼラニウム




店の最寄り駅に着いて、流れに紛れるように改札を抜ける。

人の足音やアナウンスが混ざり合う駅の中を歩きながら、さっきから同じことばかり考えていた。


一度思い出してしまうと、もう止められない。

どうしても、お母さんに会いたくて仕方なくなる。


胸の奥がきゅっと締めつけられるみたいで、歩きながら何度も息をついた。


バイトが終わったら、今日は寄り道なんてしないで、まっすぐ帰ろう。

帰って、久しぶりにアルバムを見よう。

そう思うだけで、少しだけ胸の奥が落ち着く気がした。



そんなことをぼんやり考えながら歩いていると、不意に背後から声が飛んできた。



「あれ、ひなじゃん?」



聞こえた瞬間、心臓がどくんと強く鳴る。

嫌な予感が、背中を冷たい手でなぞるみたいに走った。

振り向かなければよかったのかもしれない。

そう思った時にはもう遅くて、私は反射的に振り向いてしまっていた。



「あ、やっぱりひなだ」


「誰?」



知らない男の人の声が重なる。その人が隣にいる女の子に聞くと、女の子は当たり前みたいに答えた。



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