きみは硝子のゼラニウム
顔を上げると、上から私をのぞき込むような態勢の彼がいた。
黒くて柔らかそうな髪が額にかかり、光を受けてさらりと揺れる。
見上げるその顔は、やっぱり綺麗で、思わず息を呑む。
ふわりと漂うミモザの香り。
「あ、もしかしてこの前の…」
彼がそう言った瞬間、私はハッとして、体を反射的に離す。
頭に触れた感触は、どうやら彼の胸だったらしい。
「…ほんっと、すみません!迷惑かけてばかりでっ」
もう、何回この人に助けてもらったら気が済むんだろう…。
胸の中がぐるぐる、目が回りそうなくらい混乱する。
すると彼は、少し笑いながら低く言った。
「この前も思ったけどさ、謝ることじゃないでしょ」
「え?」
「俺は、ありがとう、のほうがいいんだけど」
その言葉に、ハッとする。
私はずっと謝ってばかりで、一度も彼にお礼を言えていなかった。
「…あ、ありがとうございます」
お花を購入してくれたお客様にお礼を言うことはあっても、こうしてお礼を言うのは、ほとんど初めてだった。
誰にも頼らず、自分でやってきた私にとって、ありがとうと言う機会すらあまりなかったから、声に出すのが少し照れくさい。