きみは硝子のゼラニウム
忘れるわけない。
そんな簡単に、忘れられるわけない。
もし本当に忘れられるなら、どれだけよかっただろう。何年たっても、胸の奥に残ったままのこの感覚を、きれいさっぱり消せたなら。
だけど、消えなかった。時間がたっても、場所が変わっても、あの時の言葉はずっと残ったままで、ふとした瞬間にこうやって蘇ってくる。
「……っ…じゃあ、私行くから」
ぐっと唇を噛みしめて、もう顔を見ることもできなくて、そのまま踵を返して走り出す。
これ以上、あの場にいたくなかった。これ以上、あの声を聞きたくなかった。喉の奥が気持ち悪くて、今にも吐きそうだった。
気づけば、全力で走っていた。店まで続く坂道を、息が切れるのも構わず下る。
冬の冷たい空気が肺の奥に入り込んできて、胸がひりひりと痛い。なのに体は止まらなくて、ただ必死に足を動かしていた。
背中にはじっとりと汗がにじんで、服の内側を伝っていくのがわかる。
頬には涙が溢れてきて、走っているせいでその雫が後ろへ後ろへ流れていく。
息を吸うたびに、冷たい空気が肺を刺すみたいに痛い。