きみは硝子のゼラニウム




「…っ、はぁっ…はぁっ…」



苦しい。

胸がぎゅうっと締めつけられて、息がうまくできない。空気を吸っても吸っても足りなくて、喉の奥がひりつく。

心臓だけが、ドクンドクンってうるさいくらい鳴っている。



……嫌い。

大嫌いだよ。自分の名前なんか。


――雛菊。


昔は、好きだったはずなのに。お母さんに由来を聞いたとき、すごく素敵だと思ったんだ。


小さくて可愛い花なんだよって、お母さんは笑って教えてくれた。

愛らしくて、清らかで、素直な子に育ってほしい。そんな願いを込めてつけた名前なんだよって。

私はそれを聞いたとき、すごく嬉しくて、胸がぽかぽかして、この名前みたいな子になりたいって本気で思った。


だから、由来だけじゃなくて、雛菊の花言葉まで調べた。


ピンクは希望。白は無邪気。紫は元気。赤は幸福。黄色はありのまま。

どれもきらきらしていて、綺麗で、全部が優しい意味だった。

名前を呼ばれるたびに、私はお母さんに愛されてるんだって思えた。雛菊って呼ばれるたび、ちゃんと大事にされてるんだって感じられた。



……でも。

周りは、そうじゃなかった。



< 213 / 301 >

この作品をシェア

pagetop