きみは硝子のゼラニウム
「雛菊って名前、変なの」
その言葉を初めて聞いたのは、たしか小学5年生のとき。お母さんが亡くなって、すぐの頃だった。
進級して、新しいクラスで自己紹介をしたとき。みんなの前で、自分の名前を言ったあとだったと思う。
後ろのほうから、小さな笑い声が聞こえた。
――変な名前。
たったそれだけの言葉なのに。
それから、気になるようになった。
誰かがひそひそ話してると、もしかして私の名前のことを言ってるんじゃないかって思った。笑い声が聞こえると、また変だって言われてるんじゃないかって思った。
誰もそんなこと言ってないかもしれないのに、ずっと、ずっと気になった。怖くなった。
だから私は、お父さんにもお願いした。「雛菊」じゃなくて、「ひな」って呼んでほしいって。
本当は、好きな名前だったはずなのに。大切な名前だったはずなのに。
……なのに。
今はもう、嫌いで仕方ない。憎い。どうしようもなく憎い。目立たないように、気づかれないように、できるだけ小さくなって。雛菊なんて名前、最初からなかったみたいに。
……なのに。
どうして、思ってしまったんだろう。
こんな自分が嫌いで、どうしようもなくて、ずっと逃げてきたくせに。