きみは硝子のゼラニウム




だめ。今の姿、尋くんには絶対に見られたくない。こんな、ぐちゃぐちゃの私なんて。見られたくない。見られたらきっと、全部壊れてしまう気がする。



そう思った瞬間、私は反射的に視線を落としていた。


そして二人に気づかれないように、そっと店の裏へ回る。
できるだけ足音を立てないように、息を押さえながら静かに歩く。


心臓がうるさい。ドクン、ドクンって胸の中で暴れていて、今にも外に聞こえてしまいそうだった。


裏口までたどり着くと、そっと勝手口のドアを開ける。小さくきしむ音と一緒に、店の中の空気が流れ込んできた。


……花の香り。


ふわっと優しい匂いが鼻をくすぐる。甘くて、少し青くて、落ち着く香り。毎日嗅いでいるはずなのに、その香りに包まれた瞬間、胸の奥のざわざわがほんの少しだけ和らいだ気がした。



作業用のテーブルの上にいろんな色の花が並んでいる。赤、白、ピンク、黄色、紫。少しずつ束になる前の花たちが置かれていて、きっと店長が花束を作っている途中なんだろう。


ぼんやりそんなことを思っていた、そのとき。



「ごめんね、もうすぐ帰ってくると思うんだけど」



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