きみは硝子のゼラニウム
突然、カランカランとドアが開く音が響いた。店の入口のベルが揺れて、澄んだ音が店内に広がって、店長の声が聞こえる。
どうやら中に入ってきたらしい。さっきまで外で話していたはずなのに、もうすぐそこまで来ている。
「っ…!」
反射的にその場でしゃがみこんでしまい、慌てて口元を押さえて、息を殺す。
「いや、全然。会えなかったらそれでいいんで。約束してるわけじゃないし」
――尋くんの声。
その声を聞いた瞬間、胸の奥に溜めていたものが一気にこみ上げてきた。
やさしい声。いつも通りの声。何も知らないみたいに、普通に話している声。それがどうしようもなく苦しくて、視界がじわっと滲む。
だめ。泣いたらだめ。
そう思うのに、喉の奥がぎゅっと詰まって、息が震える。
「ひなちゃん最近、心ここにあらずって感じなのよね。なにか知ってる?」
店長の、その言葉を聞いた瞬間、胸がぎゅっと締めつけられる。
……やっぱり、ばれてたんだ。ばれないようにしていたつもりだった。なるべく、普通でいようとしていた。それでも、店長には分かってしまったらしい。小さな違和感なんてすぐに気づいてしまう人だから。優しい人だから。
だからこそ、心配なんてかけたくなかったのに。これ以上、気を遣わせたくないのに。