きみは硝子のゼラニウム
「私、ひなちゃんに何にもしてあげられなかったわ」
パチン、パチン――ハサミで茎を切る音が、静かな店内に響く。花を切る音が、少しだけ胸にしみる。
「何にも…とは?」
「お母さんが事故で亡くなってるのは知ってる?」
「はい。ひなから聞いてます」
店長の言葉に頷きながら、そばにあった赤いバラを一本手に取る。
「私ね、ひなちゃんの本当のお母さんにはなれないけれど、そういう存在でいたかったのよ」
店長はそう言って、少しだけ微笑む。店長はハサミをテーブルに置きながら、「少し長くなるけど、話を聞いてくれる?」と続けた。
俺は、手に持っていたバラをそっと元に戻し、店長の方へ寄る。静かな店内に漂う花の香りに包まれながら、言葉を待つ。
「元々、ひなちゃんのお母さんは、結婚する前からこの店の常連さんだったの。もう亡くなってしまっているけれど、おとぎ話に出てくるお姫様みたいに綺麗な人だったのよ。優しくて、強くて、花が咲いたみたいに笑う人だった。ひなちゃんも、立派にその血を受け継いでいるわ」
店長の声は少し懐かしむようで、柔らかく、でもどこか切なげだった。