きみは硝子のゼラニウム
ふと、お母さんと初めてこの店を訪れた日のことを思い出す。
まだ背も低くて、花屋さんなんてほとんど知らなかったあの頃、扉を開けた瞬間にふわっと広がった香りに、思わず足を止めたのを今でもはっきり覚えている。
色とりどりの花が並ぶ景色は、それまで見てきたどんなものよりも綺麗で、まるで別の世界に迷い込んだみたいだった。
お母さんはそんな私を見て、くすっと優しく笑って、「好きなの、選んでいいよ」なんて言ってくれて、その声がやけに嬉しくて、何度も何度も店内を行ったり来たりしたっけ。
思えば、家の中にはいつもどこかに花瓶があって、リビングだったり、キッチンだったり、時には玄関にも、小さな花が当たり前みたいに飾られていた。
毎月のように、その花は変わっていて、季節が移り変わるたびに家の空気も少しずつ変わっていくのが、子どもながらに好きだった。
「お母さん、このお花はなんていうの?」
何気なくそう聞くと、お母さんは少しだけ嬉しそうに目を細めて、
「これはね――」
と、名前を教えてくれる。