きみは硝子のゼラニウム
家に戻ると、いつも通りとしんと静まりかえっている空気が出迎えた。
「ただいま」と小さく呟いてみても、返事が返ってくることはなくて、その当たり前の現実が、今日はやけに重く感じられる。
広すぎる家に、ひとりきり。
足音だけがやけに響いて、どこか他人の家にいるみたいな、そんな感覚に襲われる。
私は、本当にこれでよかったのかな。
手に抱えている花束を見つめながら、そんな考えが頭をよぎる。
鮮やかな色の花たちが、今の自分には少し眩しすぎて、思わず視線を逸らしてしまった。
玄関で靴を脱いで、重たい足取りのままリビングへ向かう。
扉を開けた瞬間、真っ先に目に飛び込んできたのは、壁に吊るされた一輪の赤いバラだった。
時間が止まったみたいに、そこだけがずっと変わらないまま残っている。
「……尋、くん」
声に出した途端、胸の奥にしまい込んでいた感情がじわじわと溢れ出してくるのがわかった。