きみは硝子のゼラニウム




暖かい春の日差しの中、配達先までの道を歩きながら、胸の奥がふわふわしていることに気づく。

風がやさしくて、空が高くて、道端の草花まできらきらして見える。


でもそれは、歩いている人たちがどうとか、景色がどうとか、そういうことじゃなくて。


私の、心の中、の話で。



昨日からずっと、少しだけ照れくさいような、あったかいような、くすぐったい気持ちを抱えたままなのだ。


何度も、何度も思い出してしまう。

朝起きてから、もう何回目だろう。

頭の中で、あの声が再生される。



『綺麗だと思ったし、目が離せないっていうか…ずっと見ていたい感じ』



不意打ちだったのに、冗談じゃないってわかるくらい真剣な声だった。


あの、真っすぐな目。逸らせなかったのは、たぶん私のほう。


心臓がうるさくて、どうしていいかわからなくて、それでも嬉しくて。


花よりもずっと、私のほうが赤くなってた気がする。



配達用の花束を抱えながら、私はそっと頬に触れる。


まだ少し、熱い気がした。


春のせいにしてしまえたらいいのに。



< 34 / 301 >

この作品をシェア

pagetop