きみは硝子のゼラニウム




心臓はさっきからずっと落ち着く気配がない。

なんとか点滅が赤に変わる前に渡りきって、ほっと息をついた瞬間。



「今日も配達?」


「…はい」



短く返事をしながら、頭の中では別の言葉がぐるぐるしている。


いや、なんでいるんですか。なんでこんなタイミングで。なんで。

聞きたい。聞きたいけど、そんな勇気、どこにもない。


隣に立つ彼を、代わりにそっと見上げる。

背が高いから、自然と視線は上向きになる。



「なに?」



優しい声。目が合う。

だめだ、昨日のことが離れない。


昨日のこと、どういう意味だったんですか。覚えてますか。
そんな言葉、喉の奥まで出かかって、でもやっぱり飲み込む。



「え…っと」



気になるんです、なんて言えるわけない。

でも、せっかく偶然会えたのに、このまま終わるのは、なんだか惜しい気もして。

だって、羽吹さんに聞きたいこと、山ほどある。


ぐるぐるしていると、不意に。



「俺も付いてっていい?」


「……え!?」


「配達」



いいよな?って、私の返事を待つより早く、ひょい、と。花束が入っている鞄を、私の手から軽々と奪い取った。


ちょ、ちょっと待って…!


慌てて伸ばした手は空を切る。


彼はもう、私の半歩前を歩き出している。



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