【完】きみは硝子のゼラニウム




「羽吹さんっ、さすがにそれはっ…私の仕事ですしっ」



思わず早口になる。自分でもわかるくらい必死な声。

だって、本当にそうだ。

助けてもらってばかりで、気づけば隣にいて、気づけば手を差し伸べられていて。いつかちゃんとお返ししなきゃいけないのに。


そっと鞄に手を伸ばして、返してもらおうとする。

けれど、ひょい、と。

羽吹さんはそれを背中側に隠してしまった。



「は、羽吹さんっ」



抗議の声を上げると、彼は少しだけ首を傾げる。



「苗字じゃなくて、俺の名前。尋って呼んだら返してあげる」


「…え、」



な、なんでそうなるの?


心の中で大混乱。目の前の彼は、少し意地悪そうに口角を上げて、ほら、と急かすみたいに私を見る。


ずるい。その顔。余裕たっぷりで、絶対困ってる私を楽しんでる。



「そ、そんなこと急に言われても…」



だって、無理。今まで、男の子とまともに関わったことなんてほとんどない私にとって、“名前で呼ぶ”なんて、ハードルが高すぎる。しかも本人を前にして。しかもこんな至近距離で。しかもこんなに目、合ってる状態で。


臓がうるさい。耳まで熱いのがわかる。



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