【完】きみは硝子のゼラニウム
さっき通ってきた緩い坂道を登っていく。息が少し上がるのに、尋くんは平気そうな顔でどんどん進む。
繋がれたままの腕が熱い。鼓動が伝わってしまいそうで怖い。
やっと坂を登り切ったところにある、小さなカフェの前で、彼はぴたりと足を止めた。
ガラス張りの扉の向こうに、柔らかな光が揺れている。
「ちょっと待ってて」
そう言うと、またしても私の返事は聞かずに、ひとりで店の中へ入っていく。
店内に入っていった尋くんの背中がガラス越しに見えなくなるまで見送ってから、私はふーっと長く息を吐いた。
さっきまで引かれていた腕がまだじんわり熱くて、その熱をごまかすみたいにガードレールにそっと腰をかける。
強引だし、いつも引っ張られるし、振り回されてばっかりだ。
「……ふーっ」
もう一度、深く息を吐いて、うつむく。
……頬が、あつい、気がする。
だって、尋くんみたいな人に出会ったことがない。そもそも、男の子なんて慣れていない。
クラスでも必要以上に話すことはないし、目を合わせるだけで緊張するタイプなのに。
なのに、尋くんは平気で距離を詰めてくるし、平気で腕を掴むし、平気で心拍数を上げてくる。