きみは硝子のゼラニウム
そんなことを考えていると、カラン、と小さな音を立ててお店の扉があいた。
反射的に顔を上げると、ストローのささったカップをふたつ持った尋くんが出てくる。
「コーヒーとカフェラテ。どっちか飲める?」
「…カフェラテ、で…ありがとうございます」
差し出されたカップを受け取ると、指先がほんの一瞬触れた気がして、慌てて視線を落とす。
ストローに口をつけて一口飲むと、ふわっと甘い香りが広がった。こんなに落ち着く味のカフェが、こんな近くにあったんだ。
バイトのためにここへ来ているだけで、周りのお店なんてちゃんと見たこともなかった。
そういえば、私はこの街のことを何も知らないなあ、なんて思う。
尋くんはそんな私の隣に、何のためらいもなく腰かけた。
ガードレールがきしっと小さく鳴る。距離が、近い。
「名前教えて」
不意に落ちてきたその一言に、心臓がびくっと跳ねた。
「え?」
「そういや聞いてなかったなと思って」
さらっと言ってから、尋くんは、ひなって呼ばれてるのは知ってるけど、と付け足して、ちゅー、とストローを吸う。