きみは硝子のゼラニウム




そんなことを考えていると、カラン、と小さな音を立ててお店の扉があいた。

反射的に顔を上げると、ストローのささったカップをふたつ持った尋くんが出てくる。



「コーヒーとカフェラテ。どっちか飲める?」


「…カフェラテ、で…ありがとうございます」



差し出されたカップを受け取ると、指先がほんの一瞬触れた気がして、慌てて視線を落とす。


ストローに口をつけて一口飲むと、ふわっと甘い香りが広がった。こんなに落ち着く味のカフェが、こんな近くにあったんだ。


バイトのためにここへ来ているだけで、周りのお店なんてちゃんと見たこともなかった。

そういえば、私はこの街のことを何も知らないなあ、なんて思う。


尋くんはそんな私の隣に、何のためらいもなく腰かけた。

ガードレールがきしっと小さく鳴る。距離が、近い。



「名前教えて」



不意に落ちてきたその一言に、心臓がびくっと跳ねた。



「え?」


「そういや聞いてなかったなと思って」



さらっと言ってから、尋くんは、ひなって呼ばれてるのは知ってるけど、と付け足して、ちゅー、とストローを吸う。



< 53 / 301 >

この作品をシェア

pagetop