きみは硝子のゼラニウム
「言いたくないなら、無理して言わなくていーよ」
そう言いながら、尋くんはすっとガードレールから立ち上がった。
そしてそのまま、私の前まで歩いてきて、少しだけ屈んで目線を合わせてくる。
昨日みたいな、まっすぐの瞳。
「でも俺は、呼びたいけどね。名前」
「…っ、」
私の顔色をうかがうような、少し低くて柔らかい声に、思わず息が詰まる。
俺は、呼びたいけどね。って、なんで。
私の名前なんて、別に大したものじゃないし、呼ばれたところで何かが変わるわけでもないのに。
尋くんは、私の腰の横のガードレールに両手をついた。
カン、と小さな金属音がして、左右を塞がれる。
まるで尋くんに抱きしめられてるみたいな距離に、一気に酸素が足りなくなる。
「…ひ、尋くんっ…なんで、」
近いし、やっぱりいい匂いがするし、視界いっぱいに彼がいる。
胸の前で両手をぎゅっと握りしめて、前を見れば尋くんの大きな胸が目の前にあって、思わずそっぽを向く。
頭がグルグルして意味が分からない。
どうしてこんな状況になってるの。どうしてこんなに距離が近いの。どうしてそんな目で見るの。