きみは硝子のゼラニウム
画面に浮かぶ名前を、思わずじっと見つめた。
“羽吹尋”
整った文字列まで、なんだかかっこよく見えるのは気のせいだろうか。
初期設定のままのアイコンに、少しだけ意外だと思った。もっと自撮りとか、友達との写真とか、派手な画像にしていそうなのに。
そんなことを考えながら画面を眺めていると、ふっと影が落ちる。
なに、と思って顔をあげたのがよくなかった。
目の前、すぐそこに、綺麗な顔。
近い。とにかく、近い。パーソナルスペース、という概念が、この人にはきっとない。
「…っ、」
「俺、めっちゃ連絡すっからねー。無視すんなよー」
軽い口調なのに、奥二重の瞳がキラキラしていて、その瞳の中に、はっきりと私が映っているのが分かって、息をのむ。
私とは違う世界で生きているみたいな人。そんな人の画面に、私の名前が登録されている。そんな人の瞳に、今、私が映っている。
私なんかが足を踏み入れてもいいのだろうか。この人の日常に、少しでも入り込んでしまっていいのだろうか。