きみは硝子のゼラニウム




綺麗な瞳につかまれて、視線を外せない。心臓がうるさくて、苦しいくらいなのに、嫌じゃないのがもっと怖い。

恥ずかしさが一気に込み上げてきて、……近い、と小さく呟くと、尋くんは一瞬きょとんとして、それから楽しそうに笑った。



「なに、今さら」



そう言いながら、ようやく少しだけ身を引く。

そのわずかな距離で、やっと空気が肺に入る。



「次、ひなの番な」



そう言われた瞬間、さっきまでどきどきとうるさかった胸が、すうっと静まっていく。

落ち着いた、というより、少しだけ冷たくなったみたいに。


連絡先交換したら分かると思ったのに”ひな”だし、とついさっき交換した私の連絡先をスマホに映して見せてくる。


私の名前、なんて。大したものでもないし、正直なところ、尋くんに知られたくない気持ちもある。

知られたら最後、なにか大事な部分まで覗かれてしまいそうで。

けれど、心なしか楽しみにしている様子の尋くんの顔を見てしまったら、逃げるなんて選択肢は消えてしまう。


緊張で喉がひりつく。指先が冷たい。私は小さく息を吸って、ゆっくり口を開いた。



「…一色雛菊(いっしきひなぎく)、です」



最後に、ひなって呼んでください、と伝えた。



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