きみは硝子のゼラニウム




「ねえ、なんで雛菊って呼んだらダメなの?」


「…ダメ、じゃないけど」



ダメ、じゃないけど、ダメ。

尋くんならいいかもしれない。けれど、尋くんだから、ダメかもしれない。

手のひらがじんわり汗ばんでいく。小さな呼吸さえも制御できない気がする。



「雛菊って、何かの花だったりする?」



わざとらしく名前を呼ぶ尋くんに、思わずムッとしたけれど、すぐそばでクスクス笑う顔を見ると、怒る気も失せる。


ずっと近い距離に立たれて、息がかかりそうで、そろそろ離れてほしいのに、尋くんはほんの少しも距離を詰めたままだ。


私は小さく肩をすくめながら、視線を逸らすしかない。



「…デイジーってお花知ってます?雛菊はそれの別名」


「へー。名前の由来とかあんの?」


「…。」



……私に”雛菊”をつけた由来。

脳裏にお母さんの笑った顔が浮かび、ズキッと胸が痛む。でも、それを悟られたくなくて、私は平静を装う。



「……愛らしく、清らかで素直な子に育ってほしいって思いで、つけられたんです」



あぁ、また。

お母さんの顔が、胸の痛みと一緒に交互に浮かんでくる。



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