【完】きみは硝子のゼラニウム
呼吸ってどうやってするんだっけ。胸が上下するのも忘れて、ただ目の前の尋くんしか見えない。
私の顔の横には、尋くんの手。壁にドン、とついたその腕に囲まれるみたいに、私は完全に逃げ場を失っていて、背中にはひやりとした壁の感触。
少しでも動いたら、額とか、鼻とか、もしかして唇とか、いろんなところが触れてしまいそうな距離で、頭の中が真っ白になる。
目をぱちぱちさせるたびに、視界いっぱいの尋くんが揺れて、そのたびに胸がどくん、と大きく鳴る。
瞳の奥に光が散ってるみたいで、吸い込まれそうで、怖いのに目を逸らせない。
騙されちゃだめ、惑わされちゃだめ、なんて思ってたのに、この状況でどうやって冷静でいろっていうの。
「おーい、尋。大丈夫かー?」
突然、尋くんの肩にぽん、と軽い音を立てて手が置かれた。後ろからひょいっと顔を覗かせた2人組。
その声に、尋くんの身体がびくりと跳ねる。
次の瞬間、私から勢いよく離れて、ものすごいスピードで振り向いた。
「体当たりしてくんのやめろ!次やったら殴るからな」
「わーっ!ごめん、ごめんって!」
大げさに両手を上げて笑うその人。
珍しく怒ってる尋くん。
友達…?かどうかは分からないけれど、普段はこんな感じなんだなあ…。