五年後の約束――ランドセルに揺れた、わたしたちの初恋
#9 エピローグ(私と宝箱)
「ママ、いいものみつけた。おかし、入ってるかな?」
「え! それ、どこから出してきたの?」
「ベッドのおへやの、ママのかがみのつくえのうえ」
「人のものを勝手に持ってきてよかったのかな?」
「……ごめんなさい。だって、このかん、きれいでかわいいんだもん」
「そうよね、可愛いね。……・でもね、お菓子は、むかーし、ママが全部食べちゃった」
「えー! ずるーい。サキもたべたかったな……でもこのかんかん、なにか入っているよ。あけていい?」
サキがお菓子缶を両手で振り、耳を傾ける。何やら、カタカタと音がする。
「サキにはまだ開けられないかな。ちょっと貸してごらん」
私は、缶を受け取り、片開きのフタを開け、サキに返す。
「サキ、何が入ってるかな?」
「んー、ちっちゃな、えほん!」
「そうだね、絵本だね。でもね、これはね、ママが初めて好きになった子からのラブレターなんだ」
「ラブレター?」
「そう。『ママのこと好き』って伝える、お手紙」
「えー! よんでよんで!」
これを読むのは、いつ以来だろう。サキを膝の上に乗せ、ちょっとドキドキしながら絵本を手にする。
私は、表紙の題名を読み上げる。
『Treasure Days』
「ママ、どういうこと?」
「んー、『宝物のような思い出』ってとこかな」
表紙には、缶のフタと同じく、手をつないだ、クマとロボットの絵。
私は表紙をめくり、最初の見開きのページを読む。
『クミクマは、ロボケンがつくった、すなの、げつめんきちを、おもちだとおもって、こわしちゃいました。』
砂場で月面基地を壊され、泣いているロボケンとそれを見て笑っているクミクマ。
ページをめくる。
『でも、ふたりは、すぐに、なかよしに、なりました。』
クミクマとロボケンが並んでお弁当を食べている。
次のページ。
『ある日、ふたりは、やまに、ぼうけんにいって、みちにまよってしまいました。こわかったけど、ふたりで、がんばって、たすかりました。』
暗い山道を手をつないで歩くクミクマとロボケン。
さらに、次のページ。
『だけど、クミクマは、よそにおひっこしすることに、なったのです。ロボケンは、クミクマがいなくなってから、もうあえないんだって、わかり、かなしくなりました。』
手を振るクミクマ、涙を流して、うつむくロボケン。
さらにさらに、次のページ。
『でもね、クミクマはね、もどってきたんだよ。まえみたいに、なかよしできるね。』
ハイタッチする、クミクマと、ロボケン。
もっと、次のページ。
『じつは、クミクマは、また、おひっこし、しなければ、ならなかったのです。ふたりは、のこされたじかん、できるだけ、いっしょに、すごしました。』
椅子に座っているクミクマの絵を描く、ロボケン。
そして、おしまいのページ。
『いよいよ、おわかれの、ときが、やってきました。』
『さようなら。』
『いつか、あえるといいね。』
手を振ってバイバイする二人。
私が絵本を閉じると、膝の上に乗ったままサキが振り向く。
「ええ! さようなら、でおしまい? このえほん、ママがもらった、らぶれたーなんじゃないの?」
「そうよ。じゃあね、サキ。缶の中をよーく見てごらん」
サキは、お菓子缶を両手に持ち、顔を近づけて中を覗く。
そして何かを発見し、引っ張り出す。
「あ、クミクマさんだ……あ、ロボケンさんもいるよ」
私の娘は、キーホルダーを二つ取り出し、両手でブラブラさせる。
「サキ、もう一回、缶の中をのぞいてごらん」
サキは、一枚のカードのようなものを取り出す。
「ママ、これなーに?」
「そうだね。コースターかな。お飲み物のコップをおくやつ」
そこに描かれているのは、向かい合って、キスをしているクミクマとロボケン。
二人の横には、こう書かれている。
“ ぼくは、わすれない。
きみが、もし、わすれてしまっても、
だいじょうぶ。
こころの、たからばこから、
いつでも、とりだせるよ。”
サキは、ニコッとして私に聞く。
「ママも、キスしたの?」って。
サキのご想像に、おまかせしよう。