絶対恋度
何にせよ、いまは元カレとか関係なく、同級生として対応しなきゃ。

「ここ、元々機材部屋として使ってたからなんもないけど、ソファーはあるから使えば?」

促された一室は、今のわたしにとって十分すぎる広さだった。

「たすかる〜!」

ふかふかのカウチソファーに、吸い込まれるように身を投げる。今日の疲れと、お酒の酔いが一気に回ってきた。

「おい、まだ待て」

「っわ!?」

ソファーを広げていた途中だったため、そのままくらりとよろめいたわたしの肩を、燈埜が掴む。そのままの勢いで、ソファーに押し倒される形になった。

燈埜の顔が視界を埋め尽くした。 まつ毛の一本一本まで数えられそうな距離。三白眼の瞳に、呆然としているわたしの顔が映っているのではないか。

「……いや、黙んなよ」

「は?」

形のいい唇が動く。 この圧倒的な美貌を武器にするわけでもなく、むしろ無頓着に、どこか気だるげに振る舞うところがじつのところ一番性質が悪い。

至近距離で浴びる彼の体温と、微かに漂うウッディな香水の匂いに、さっきまで上手に演じられていたはずの境界線が、音を立てて崩れていくような気がした。

「……全然色気ねえな」

「は!?」

「そんな噛みつかなくても、なんもしねえよ」

燈埜は鼻で笑って私の鼻先をぴんと弾いて離れると「じゃあ、おやすみ」と言い残して部屋を後にした。


「……なによ……」


意識するなんてありえない。これは成り行きだ。成り行きとはいえ、不穏な予感しかないけれど、こんな夜に一人で泣くよりはマシかもしれない。


……たぶん。
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