絶対恋度
飲み会がお開きになるころ、燈埜へ感じていた少しの緊張は、アルコールがほどよく溶かしていた。

タクシーが止まったのは、都心の喧騒から少し離れた、静かな住宅街だった。そこに佇む低層マンションは、重厚な石造りの外壁が街灯に照らされ、日本にいながらヨーロッパのヴィンテージアパートを彷彿とさせる独特の存在感を放っていた。

高い天井、無機質ながらどこか温かみのあるコンクリート打ちっぱなしの壁。オートロックを抜け、重い扉を開けた先にある彼の自宅兼オフィスは、最新鋭のモニターが並ぶワークスペースと、生活感の削ぎ落とされたリビングがシームレスに繋がっていた。

「(あいかわらずすごい家……)」

だけど、部屋の香りは高校生の頃とかわらない、懐かしい香りがした。よほどお気に入りのルームフレグランスなのだろう。

わたしたちはお互い、別の大学へ進学が決定していた。燈埜とわかれたのは高校の、卒業式の直前だった。別れたいと言ったのはわたしの方で、燈埜はわたしを引き止めなかった。

あのころ、わたしの恋愛はすべて燈埜で構築されていた。眠れない夜に電話をかけても文句ひとつ言わないし、休みの日の予定に付き合わせるほどわがままだったとおもうし、不安にさせて欲しくないからそれなりに束縛もしたし、そんなわたしを、燈埜はいちどだって責めもせず、ぜんぶ付き合ってくれた。

きっと、いままで何度も別れたくて、そのたびに言えずにいたんだろうな、と、一方的に決定づけていた。

自分のせいだって、そう思う方が楽だったからだ。

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