絶対恋度
元恋人たちの同居のいろは
意識の淵がゆっくりと白んでいく。
最初に感じたのは、頬を撫でるひんやりとした空気の感触だった。
柔らかな光に誘われて薄く目を開けると、そこには無機質なコンクリートの天井が広がっていた。高い天井を這うライティングレール。全く見慣れない天井をぼんやりと見つめていれば、徐々に昨日の記憶が押し寄せてくる。
「(……さいあく、思い出しちゃった……)」
意識がはっきりするのと同時に胃の奥が嫌な音を立てる。
あのあと、二人はどうしたのだろう。ようやく二人の世界になれて幸せだった?あの部屋で、あの場所で、あの寝室で共に過ごした?
……きもちわるい。
近くのクッションをぎゅっと握りしめる。できれば……そうだな、大型連休の直前に伝えて欲しかった。だって絶望のふちにいても生活はつづくし、生きているならば日常をつづけなければならない。
「(仕事、行きたくないなあ……)」
弊社に失恋休暇なんてやさしいものはない。有給を使いたいけれど、なにかに負けた気がして癪だ。
寝返りを打つと、僅かに開いたドアの隙間から細い光の帯が差し込んでいた。這い出すようにソファーを抜け、リビングへ出ると、冷ややかな朝の光の中に燈埜がいた。
ふと顔を上げた彼の瞳と目が合う。形のいい眉、鋭くもすずしげな三白眼、そして筋の通った高い鼻。どこかCGのように整ったその美貌を目の当たりにすると、胸の奥のざわめきが一瞬だけ凪ぐような気がした。
「おはよ」
その声はいつも通り。熱もなければ拒絶もなく、けれど普通に対応してくれるのが今のわたしにはありがたかった。