絶対恋度


「……おはよ。ごめん、お風呂入りたいんだけど、どこ?」

「あー……」

こっち、と言いながら燈埜は立ち上がるとのっそりと歩き始めるから、それにつづく。案内された洗面所には、ホテルのような石造りのカウンターが待ち構えていた。

「うち、シャワーしかねえよ」

「浴槽ないの?」

「うん。掃除、めんどうだし」

燈埜が浴室の扉を開けると、本当に浴槽はなく、ガラス張りのシャワーブースがあるだけだった。強いていえば浴槽に浸かりたい派なんだけど、高望みはできない。

「あ、洗濯は自分でするから、洗濯ネットとかある?」

「ん。こだわりなかったらシャンプーとか使って」

「ありがと」

燈埜がリビングに戻るのを見届けてから、服を脱ぎ、シャワーを浴びた。熱い湯が、こびりついた昨夜の彼是を洗い流してくれないだろうか。

……そんなこと、できるはずがない。

ため息を吐き出して鏡を覗き込んだ。透き通るように白い肌と、泣いた形跡すら残さない白磁の質感。少し大きめの、目尻がわずかに下がった瞳が、いつも通りにこちらを見返している。

目鼻立ちの一つひとつが見慣れた場所にバランスよく配置されており、昨夜、四年積み重ねたものをすべて失った女の顔には到底見えない。

頬は削げてもいないし、ふっくらとした唇も、瑞々しい色を保ったまま乾いていない。濡れた黒髪が白磁のうなじに張り付いて皮肉なほど艶っぽく見えた。

誰が見ても可愛いと形容するであろうこの造形は、こんなときも私を裏切らない。

——それがいちばん、腹立たしかった。

心は粉々に砕け散ってまともなかたちすら保てていないのに、器である外側だけが何事もなかったかのように整っているのだから。
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