君となら地獄を見たい
「実はね···、これは火鷹にも初めて話す事だけど、俺がこの世界に入って、初めてバディを組んだ相手が、なっちゃんの母親である"宝珠(ほうじゅ)"だったんだ。」
ボスの初めてのバディが、わたしの母親だった?
という事は、わたしの母親もこの裏社会の人間だったという事になる。
それに"宝珠"って···――――
わたしと同じコードネームだ。
「宝珠は、芯のある優しくて素敵な女性だった。組織の中では調合師をしていてね。なっちゃんが"ロスト·ダガー"に加入した時に渡した薬に関する資料は、当時宝珠が使用していたものなんだよ。なっちゃんが勉強熱心だったのもあるけど、すぐに薬学の知識を頭に叩き込んで、色んな調合を始めたなっちゃんを見た時は、さすが宝珠の娘だなぁって思ったし、当時の宝珠の姿と重なって見てしまった。」
ボスはそう話しながら、当時の事を思い出すかのように懐かしむ。
しかし、まだボスの話に頭が追い付かず、現実味の無い話にわたしはただ黙って聞いている事しか出来なかった。
「俺と宝珠が組んでいた期間は3年程だった。宝珠は、途中で組織から抜けてしまったからね。」
「そのぉ···、母は、どうして途中で組織を抜けたんですか?」
「んー、正確には"抜けるしかなかった"と言った方が正しいかな。···俺が、宝珠を守ってやれなかったのが悪いんだ。あいつ一人で···任務に行かせてしまったから·····」
ボスは拳に力を込め、微かにその拳を震わせていた。
そんなボスの表情からは、後悔の念が感じられた。
「その時は、ある敵対組織の男を始末する任務だった。当時は宝珠のような女性メンバーは少数しか居なくてね。当時の俺たちのボスが、宝珠にハニートラップを指示したんだ。宝珠は、特別美人だったからね。」
今でこそ、この裏社会にわたしのように女性は珍しくなくなっているが、当時は女性が少なかったと聞き、わたしは少し驚いた。
それなのに、母はどうして、裏社会で生きる事を選んだのだろうか。