君となら地獄を見たい

「最初は俺も一緒に任務に向かうと言った。けど、責任感の強い宝珠は、ボスの指示通り一人で向かうと言って、一人で行ってしまったんだ。あの時、俺が一緒に行っていれば······」
「それで母は、どうなったんですか?」
「···なっちゃんには、ツライ話になってしまうけど···、大丈夫かい?」

ボスの言葉に、わたしは迷いなく「大丈夫です。」と頷いた。

今までわたしには、母は居ないと思って生きてきた。
しかし今、ボスの口から母の存在を聞き、何も知らずにはいられないと思った。

もう会える事はないが、わたしの母が存在した事実を知りたい。
ただ、その一心だった。

「宝珠は···、ターゲットの男をボスの指示通りに始末して帰って来たよ。でもね、そのあとから、宝珠の身体に異変が起き始めた。最初は宝珠も"大丈夫"と言って隠していたけど···、本当は全く大丈夫ではなかった。」
「それって、まさか······」

わたしには、ある嫌な予感が頭をよぎっていた。

ボスは溜め息をつくと、「宝珠は、その時の任務で······妊娠してしまっていたんだ。」と言い、頭をガクッと下げた。

それは、わたしの嫌な予感が的中してしまった瞬間だった。

わたしは···母の犠牲のもとに出来てしまった、要らない子だったという事?···―――――

「最初に打ち明けてくれた相手が、俺だった。もう妊娠を隠しきる事が出来なくなってしまったから、組織から抜けると言ってね。でも、当時のボスは宝珠を手放すのを渋ったんだ。宝珠は優秀だったからね。だから、ボスは宝珠に中絶するように命じた。」

ボスの話を聞き、段々とわたしね気持ちが落ち込んでいくのを感じた。
それを感じ取ったボスは「でもね、なっちゃん?」と穏やかな声でわたしを呼んだ。

「宝珠は、そのボスの命令には従わなかったんだよ。あの宝珠がボスの命令を初めて断ったんだ。宝珠は、なっちゃんの命を優先したんだよ。」

その話を聞いた瞬間、鼻の奥がツンと痛くなるのを感じた。
と思えば、視界が歪んでボスの顔がハッキリ見えなくなってきた。

「宝珠は、自分には家族は居ないと言っていた。でもね、妊娠がわかって、自分に初めて家族が出来たって喜んでいたんだよ。たった一人の家族を失いたくない、わたしが守るんだって···、それで組織を抜けたんだ。」

ボスの言葉に堪えていた涙が溢れ出す。

わたしは、要らない子じゃなかった···――――

「お母さんっ···っ·······」

気付けばわたしは自然と"お母さん"と言葉に出していて、両手で顔を覆い、声に出して泣いてしまった。

わたしの隣には、何も言わずにそっとわたしの肩を抱いてくれる火鷹の存在があり、その手は温かくて、手のひらから優しさが伝わってくるのを感じた。
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