君となら地獄を見たい
「大丈夫かい?」
ボスは、わたしの涙が落ち着くのを待ってくれ、わたしは「取り乱してすいません。」と謝り、涙を拭った。
その間、火鷹はずっとわたしの背中を擦ってくれていて、わたしが落ち着くとわたしの手を優しく握り締めてくれた。
「いや、驚かせる事ばかり言ってしまって、ごめんね。」
「大丈夫です。続けてください。」
「うん、わかったよ。」
ボスはわたしの気持ちに寄り添ってくれながら、話しの続きを聞かせてくれた。
「宝珠が組織を抜けてからは、俺が宝珠のサポートをさせてもらっていた。俺も責任を感じていたから、サポートくらいはさせてくれって、宝珠に頼み込んでね。」
ボスはそう言うと、切なそうに唇を噛み締めた。
「実際、裏社会から抜けて普通の社会に出て暮らして行く事は簡単な事ではなかったから、宝珠も俺の言葉に甘えてくれた。俺は、そのまま普通の社会で、無事に子どもを産んで、普通に暮らしていってくれればいい、そう思ってた。宝珠には、一般女性として、幸せに暮らしていってほしかった。でもね···、神様は意地悪だったんだ。」
明らかにボスの声色が暗くなるのを感じた。
わたしはそんなボスに恐る恐る、「···何があったんですか?」と尋ねた。
「確か···妊娠6カ月に入ったばかりの頃だったかな。宝珠に癌が見つかったんだ。」
「えっ······癌?」
「しかも、スキルス性胃癌とかってやつで、進行が早い癌だった。」
"スキルス性胃癌"?
確かに進行が早い癌だという事は聞いた事があった。
「病院からは、すぐにでも抗がん剤治療をするべきだと言われたらしい。でも、そうなると子どもを諦めなくてはいけなくなる···、それでも宝珠は迷いなく、自分の命より子どもの命を優先した。反対する医者に"わたしの命より、赤ちゃんの命を優先してください"って···、必死に頼み込んでたよ。」
わたしは、言葉を失った。
ずっと顔も存在すら知らなかった母親の事を、わたしはどこか恨んで生きてきた。
でもその事実を聞き、わたしは心の中で母を恨んできた気持ちを悔いた。
(お母さん···、ごめんなさい······)
「それからの宝珠は···、癌の進行によって弱っていったけど、弱音は一切吐かなかった。薬を使えなかったから、想像を絶する程の痛みだったはずなのに···、お腹の子どもの心配ばかりしてた。それでね、ある時に···宝珠に頼まれたんだ。自分は大きくなった我が娘に会う事は出来ない···、だから、いつか渡せる時がきたら、渡して欲しいって。それが···そのネックレスだよ。」
ボスの言葉に、わたしは自分の手元に視線を下げ、受け取ったネックレスを見つめた。
「その石は、ガーネットっていう石らしい。宝珠が大切にしていたものだよ。」
会った事もない母が、わたしに遺した最初で最期のプレゼント。
わたしはそのネックレスを木箱から取り出すと、自分の首に身に付けた。
それを見て、ボスは懐かしむような瞳で「うん、よく似合ってる。」と言ってくれた。