贄と呼ばれた少女の、幸せ
意外にも、少女が部屋から出ることは咎められなかった。屋敷の中で見かける人は皆、迷惑そうな顔で少女を遠巻きに見て、関わろうとはしない。関わるなと厳命されているのだ。
屋敷にいる人たちは、男と女でそれぞれ揃いの服を着ている。少女はそれを、ちゃんとした人が着る服なのだと考えた。少女は、もっとちゃんとすればあの服が着られるのかもしれないと想像し、ほのかに胸を高鳴らせる。その服がお仕着せで、少女が抱いたものが淡い憧れだということを、少女はまだ知らなかった。
結局、バケツと雑巾をどうすればいいかはわからず、少女は立ち尽くす。バケツは少女にとって少し重く、うっかりすると水をこぼしてしまいそうだった。周りを見回しても教えてくれそうな人はいない。少女は仕方なく、一度部屋に持ち帰ることにした。
(お湯の人に、きいてみよう)
それはとてもいい考えだと少女は思った。少女は部屋に戻り、じっと座って夜を待った。