贄と呼ばれた少女の、幸せ


「ニエがする」

 それは少女がひと月ぶりに発した言葉で、お湯の入った桶を持ってきたのは最初の日に少女の髪を剃った女だった。女は怪訝そうな顔で桶と衣類を床に置き、黙ったまま布を少女に差し出す。

「お湯も、バケツの水も、ニエがもっていく」

 女は、どうして掃除のバケツがここにあるのよ……と呟き、少女に顔を向ける。

「水をこぼされては迷惑だから、使い終わったら廊下に出しておきなさい」

 それだけ言い残し、女は部屋を出ていった。少女は、迷惑は悪いことだとそう覚えている。なるほど、確かにこぼしそうになったから、自分にはまだできないのだ、と少女は納得した。

 少女は服を脱ぎ、これまでされてきたように自分の体を拭いてみる。そして置かれていた服に着替え、こぼさないように慎重に桶とバケツを廊下に出した。またひとつ出来ることが増えた、と少女はうれしくなった。
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