贄と呼ばれた少女の、幸せ

 女はそれだけ言うと、それ以上少女に構うことなく食事を少女の部屋に運び込む。机にトレーを置いてから、女は後ろについてきた少女を振り返った。

「これは私が取りに来るから、ここに置いておきなさい」

 女はひと言言うなり部屋を出ていく。少女は女を見送って、自分には許されないことなのだ、と残念に思いながら食事をとった。バケツを持ってくることもできないから、床も拭けない。食事を終え、次にできることも思いつかずただじっと座っていると、朝の女が食器を下げに現れた。女は、手に掃除用のバケツと雑巾を持っていた。

「これで部屋の中を拭いていなさい。終わったら、バケツは廊下に出しておきなさい」

「わかった」

 少女は上擦った声でこたえる。女の言葉が予想外だった。何かを任されるのは初めてなのだ。少女の胸に、ほのかに誇らしい、という感情が芽生える。少女は一生懸命床を磨いた。できることが増えれば、もっとちゃんとした人になれば、次は水も食べ物も運べるようになるかもしれないと希望を抱く。

 少女はその日、明日はこの脱いだ服がどこに行ってどうやって返ってくるのか探してみようと、脱いだ服を抱きしめながら寝台に丸まった。

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