贄と呼ばれた少女の、幸せ
部屋に戻ると、朝食も掃除用のバケツも、もうとっくに部屋に運ばれた後だった。朝食はすっかり冷めて、机の上にぽつんと取り残されている。
(なくなってなくて、よかった)
少女はそう思い、冷めきったスープの椀に口をつける。少女はまだ、カトラリーの使い方も知らなかった。
ひとり分だけぐしゃぐしゃに丸まった服、取り残されて冷めきった食事、迷惑そうな目、どこにも混ざれない自分。そういったものに意識を向けると、胸の奥からざわざわと何かが湧き立ちそうになる。それはとても覚えのある感覚だった。
(なくなれ、なくなれ)
少女はそれを、ぎゅうぎゅうと心の底に押し込める。少女はここでは誰にも殴られなかったが、まるでそうされているときのように床にうずくまり小さく丸まった。それは、幼い少女が必死に自身を守ろうととった体勢だった。
(いたいの、なくなれ、なくなれ)
少女の体はどこも痛まなかった。なら、どこが痛むのか、少女はそれをきちんと考えてはいけないと強く思った。
(なくなれ、なくなれ)
少女はすべてを、ぎゅうぎゅうと心の底に沈め続けた。