贄と呼ばれた少女の、幸せ
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(ほら、またあの子)
(領主様の娘っていうわけじゃないんでしょう?)
(黙ってこっちを見てきて、気持ち悪い)
(自分のことを、『贄』なんて言ってるらしいじゃない)
(やだ、気味が悪い。何かあるの?)
使用人たちの間でそんな噂話が幾度となく繰り返され、そしてたち消えていった。なぜだか、そういった噂話が好きな者ほど長続きせずにこの屋敷からいなくなった。何年かすると、数人を残して使用人の顔ぶれはすっかりと入れ替わっていた。
(ばかばかしい)
女は、残ったうちのひとりだった。少女の髪を剃り落とし、食事や桶を運んだ女だ。
(この屋敷で、深く他人に関わろうとするから長続きしないのよ)
女はいつしか、メイド長という立場になっていた。女からすれば、少女は虐待を受ける哀れなただの子供でしかない。しかし、哀れに思って深入りしてはいけないと感じていたし、その思いはぽろぽろと欠けていく同僚が増えるほどに強くなっていった。女は仕事を辞めたいと毎日思っていたが、『辞める』と言い出すことが何か致命的な引き金を引くことになると察していた。
女は人知れず、静かに追い詰められていった。