贄と呼ばれた少女の、幸せ
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「ねえ、その髪じゃまじゃないの?」
それは突然少女にかけられた、他意のない言葉だった。あれから幾度も季節が巡った。少女の髪が腰下まで伸びるほどに。
「あっいきなりごめんね、私アニーっていうの。先週から働き始めたばかりなのよ。あなたは?」
アニーは少女にそう名乗って、そばかすの散る頬を赤らめて笑う。少女にはいつからかお仕着せが与えられていた。アニーは、初めて見かけた少女を使用人仲間だと誤認したのだ。
「私は、ニエです」
「あなたが? ……ごめんなさい、あなたに関わってはいけないときつく言われているのに。知らなくて、本当にごめんなさい」
アニーは、とんだ失敗をしたとしょげ返る。その様子は少女を排斥するものではなく、失礼な失敗をしてしまったとただ反省しているものだった。
「あのね、話したことを内緒にしたら、大丈夫だよ」
「ありがとう……! あなた、優しいのね」
少女がアニーに声をかけると、アニーは顔を上げてパッと明るい笑みを浮かべた。それからきょろきょろと辺りを見回し、人がいないことを確認する。