贄と呼ばれた少女の、幸せ
「……ねえ、こっそりでも話しかけちゃいけないの?」
アニーは声をひそめて少女に問いかけた。アニーは、優しい少女になぜ関わってはいけないのかわからなかったし、人と関われない少女が寂しくないかと心配になったのだ。
「私にも、わからないの。でもきっと、関わらないほうがいい」
少女は緩く首を振った。ここで殴られたことはなかったが、それでも少女の心には言いつけに背けば罰が与えられると強く刻みつけられている。あれから何度も遠目に見かけた敷地の端を回る男たちの存在が、少女に痛みを思い出させた。少女は、アニーに辛い思いをして欲しくないと、そう思った。
「……わかった。あのね、ごめんね。もう行くけど、本当にごめんね」
アニーは何度も振り返っては、少女に気遣わしげな視線を送り去っていく。
「──髪の毛は、じゃまだと思っているの」
少女はアニーの姿がすっかり見えなくなってから、こたえそびれた言葉をぽつりと呟く。お仕着せを与えられても、少女は人の輪に入れずにいた。