贄と呼ばれた少女の、幸せ

 アニーを見かけると、少女は手のひらの光のような暖かさを思い出すようになった。アニーはどこにいても、アニーを中心に場を明るくするような、優しく善良な人間だった。あのメイド長でさえ、日が経つにつれアニーに優しく微笑みかけるようになったくらいに。

 アニーを見かける度、少女はうれしくなったが、ぜったいに話しかけようとはしなかった。自分のせいで、アニーに何か悪いことが起こるのはいやだと思ったからだ。アニーもまたただの使用人だったので、人目がない場所でも少女に関わることはしなかった。領分を超える行いは、どうしてもできなかった。

 そんな淡い関係は、季節を変えて、細く細く繋がり続ける。いつしか、アニーが少女のために教えられることがなくなってしまった。そうするとアニーは、次に少女が近くにいるときに、そのとき思っている些細なことをひとり声に出すようになった。

「わあ、今日は寒いなあ!」

「だんだん暖かくなってきたなあ、春が待ち遠しい」

「もうすっかり暖かいな、花がきれい」

「暑くなってきたなあ、水仕事が気持ちいい」
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