贄と呼ばれた少女の、幸せ

 領民、領民、領民……と口の中で呟き、男は突如激高する。

「愚か者に扇動された愚昧な領民どもめ! 真に領地のためを考えていたのが誰か気付きもせず謀略に乗せられた!!」

 男は、扇動され己の心に致命的な痛みを与えた領民を憎悪していた。自分の願いのために領民をすり潰すことへのためらいなど、最初から持ち合わせていないのだ。

「だから僕は、取り戻そうと思ってね」

 男は怒りをぴたりと収めて、ぞっとするほど穏やかな様子を取り戻す。そして、家族さえ取り戻せば裏切られた過去も傷つき壊れた己もすべてなかったことにして幸せな日々に巻き戻れると信じているかのように、いびつに笑った。
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