贄と呼ばれた少女の、幸せ

「君は贄だ」

 少女が買われたときに言われた言葉だ。『贄』という言葉が、具体的な意味を示し始める。

「あの扉は、あちら側に押して開くんだよ。君が開くんだ」

「…………いや」

「あれには術者である僕か、光の属性を持つ人間にしか触れられないからね。扉を開いて、僕の家族が戻ってきたら、中から扉を閉めるんだ。開けっ放しにしてはいけないからね。僕が中に入ってしまったら、また家族と離れてしまうだろう?」

 あの扉の向こう側に、そんな温かなものがあるはずがない。あそこにあるのは──だ。扉を見ると心の底から湧き立つこの感情はなんだったか、少女が必死に見ないように閉じ込め続けた、この、──は。

「いや、いや……ッ」

「丁度よく贄が見つかってよかったよ。光の属性はなかなか珍しいからね」

 少女の手の暖かな光は何のために求められたのか。それは、誰かを癒やすためでは、なかったのだ。少女がここで過ごす日々にわずかに抱いていた希望すらも無残に打ち砕かれる。
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