贄と呼ばれた少女の、幸せ


「オイ! どこにいんのよ!」

 果樹の間で微睡んでいると、夕暮れの中にオマエの声が響いた。

「ここにいるよ」

 少女は慌てて果樹の間から這い出し、オマエにこたえる。

「くそ! あの客払い渋りやがって! お前がもっと大きければ稼がせるのに!!」

 オマエは激高し、這い出てきた少女を怒鳴りつけ蹴りとばした。頭はだめだ、目がちかちかと光って気持ちが悪くなるから。お腹もだめだ、せっかく食べたものを吐き出してしまうから。

 少女はそう思って地べたに丸まり、頭とお腹を守る。背中とおしりならがまんすれば大丈夫だと、そう考えて。

「いつ大きくなんのよ! こんなんじゃ一回売ったら壊れちまう! 何にもできなくて、面倒くさい!!」

 オマエはただただ幼い少女に苛立ちをぶつけ、当たり散らした。ありったけの憂さを晴らすと、はん、と鼻を鳴らして家に入っていく。周りは、すっかり暗くなっていた。
< 4 / 60 >

この作品をシェア

pagetop