贄と呼ばれた少女の、幸せ
少女はその会話を、どこか遠くに聞いていた。限界を超えて走り続けた少女の体は、一度倒れてしまうともうろくに動かない。ぜっぜっと音をたてる荒い呼吸だけが少女にできることだった。
「巻き込んだのはお嬢さんだよ」
少女の上に乗り上げた男が、そう言いながら少女の喉に手をかけた。ぎちぎちと力を込められ、整ってさえいなかった少女の呼吸が止められる。
「ぐゥ、う……ッ」
苦しさに、少女の意思を超えて足がばたばたと暴れ回った。
「やめなさい、お願いよ! やめて、やめてえ!!」
「わあーーーーっと!! 危ッな!!」
焦りきった、しかしどこか爽快な響きをもつ誰かの声と共に、ドゴン! と何かが激突する音が暗い森に響き渡る。突然呼吸ができるようになり、ごほごほと咳き込みながら、少女の視界は暗くなっていく。
「わあー……焦って結構思い切り殴っちゃったぞ。話聞けるかな……ネビュラ、そっちはどうだ?」
「取り押さえた」
そんな会話と共に、少女の意識は遠くなった。