贄と呼ばれた少女の、幸せ
「私が王であったら、君は私に何を訴えたいんだね?」
ジルが情報を得ようと少女に問い返す。少女は震えながら、唇を開いた。
「ひどっひっ酷いことが、起こって、りょうしゅさまを、止めてくれますか……?」
喉がつかえてうまく言葉が出ない。頭はがんがんと痛んだ。伝えなくてはと焦れば焦るほど思考が空転し、気が急いて何から言えばいいのかわからなくなる。ジルが纏う上に立つ者の気配にも、少女は圧されていた。
「逃げてきただけの使用人か……?」
ジルはそう呟き、少女の目を正面から見据え、諭すように話しかけた。
「私は辺境伯だ。王ではない。そして、たとえ王であっても、他領の中で起こることは余程のことでない限り手出しできない」
ジル──辺境伯ジルベルトから発されたのは、少女の心を挫く言葉だった。ジルベルトは少女の事情を聞こうと思っているが、その意図は少女に伝わらない。少女は存在を無いものとされることに慣れきっていたし、何が『余程のこと』と判断されるのかもわからなかった。目の前の立派な服を着た男でも、『おうさま』でも止めてくれないと言うのなら、少女は誰に伝えればいいのかが、もうわからない。
「でも、また人がし、死んで、私、誰に……誰……っ」
そのとき、少女の肩を支える手にぐっと力が込められた。