贄と呼ばれた少女の、幸せ
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少女が起きたのは、どこかの寝台の上だった。なんだか頭がぼんやりとして、寝台の上で上半身を起こし呆けていた。
「あら、起きたのね。よかったわ、熱はないかしら?」
聞き覚えのない誰かの声がした。少女の視界に、すっと差し伸べられた手が映る。
(手だ……)
突然体中からぶわりと冷たい汗が吹き出した。手だ。女の手が近づいてくる。血の気が引いて、耳の奥がキインと鳴った。それは、少女に熱がないかを確かめようとする優しい手だったが──『手』が、恐慌の引き金を引いた。
それから自分が何とわめきどう暴れたのか少女はよく覚えていない。誰もいなくなった部屋の隅で、ただただ恐怖に怯えうずくまっている。恐ろしさに突き動かされ必死になっていたが、事態が自分の手を離れできることがなくなってしまえば、もう、少女はすべての人も、門の存在も、なにもかもが怖くて堪らなかった。