贄と呼ばれた少女の、幸せ
「門を壊してきたよ」
聞き覚えのある声がした。あの声は、優しい人の声だ。少女は『待っている』と誰かに頷いたことを思い出し、のろりと頭を上げる。部屋の入口には約束を交わした青年が立っていた。
「もう、ない…………?」
少女は部屋の一番奥から、不安に揺れる声でヒースクリフに尋ねる。
「こなごなに壊して吹き飛ばしたから、かけらも残ってない」
ヒースクリフは部屋の一番手前から、力強く優しい声で少女にこたえた。
少女の瞳から、大粒の涙がこぼれた。
「俺が、そっちに行ってもいい?」
この人なら大丈夫だ。少女は泣きながら頷く。ヒースクリフはうずくまる少女の前まで近寄り、しゃがみ込んだ。
「君が教えてくれたから、もうあそこで誰も犠牲にならないよ」
「うん……っ、よかった……っ」
涙があふれて止まらなかった。もうあんなことが起こらないのだと思うと、息を吸うのが楽になった。少女は泣きながら何度も頷く。ヒースクリフは膝の上で拳を握り、少女がこぼす涙を見つめ続けた。