贄と呼ばれた少女の、幸せ
名を聞かれて、少女は困ってしまった。少女には名前がない。そのことを真正直にこたえると、この優しい人を困らせてしまうのではないかと思えばこたえづらかった。
「どうしたの? 今までなんて呼ばれてた?」
「……『贄』と、呼ばれて……いました……」
少女はごまかす方法がわからず、視線をうろつかせながらこたえる。
「ン゛ッ」
ヒースクリフは胸を押さえた。
「あの……っその前は、『オイ』と……!」
「グゥ……ッ」
まだマシな方を、よかれと思って放たれた追撃が、ヒースクリフの急所を貫いた。ヒースクリフは両手で顔を覆い、いきなり根掘り葉掘り聞き出していいものじゃない、と念じながら深呼吸を繰り返す。呼吸を整えてから顔を上げ、少女にことさら明るく笑いかけた。