ミラージュ・プリンセス♡ 〜私が、王女さまって本当ですか?〜

★ 鏡の向こうから

「美亜、また部屋にこもってるの?」

 階段の下から、お母さんのあきれたような声が聞こえてくる。
 私――小鳥遊美亜(たかなしみあ)は、その声から逃げるように布団を頭までかぶった。
 夕暮れの薄暗い部屋。
 カーテンの隙間から差し込むオレンジ色の光が、机の上に置かれたままの教科書や文房具を照らしている。

「……べつに、いいじゃん」

 誰に聞かせるわけでもなく、小さくつぶやく。

 中学二年生の春。
 新しい制服に袖を通したときは、あんなにドキドキしていたのに。
 学年が一つ上がってから行われたクラス替えで、仲の良かった友達とは離れ離れ。
 新しいクラスでは、なんとなくグループが出来上がっていて、私が入る隙間なんてどこにもなかった。
 休み時間は図書室へ逃げ込み、放課後は誰とも目を合わせずにまっすぐ家に帰る毎日。
 新学年がスタートしてから、一か月が過ぎようとしているのに。

 ベッドにごろごろしながら、枕元で充電していたスマートフォンを手に取る。
 指先でSNSのアイコンをタップすると、タイムラインには楽しそうな世界があふれていた。

『今日のヌン茶(アフタヌーンティー)、最高!』
『カラオケなう。C組メンツ楽しすぎw』

 スタンプやフィルターで飾られ、アップされている写真には、キラキラした笑顔のクラスメイトたち。
 その端っこにすら、私はいない。

 胸の奥が、ぎゅっと締め付けられるみたいに苦しい。
 私だけが、世界から取り残されている気がする。

 いいな……みんな、楽しそう……。

 自分に自信なんて、これっぽっちも持てない。
 目立つ特技もないし、勉強も運動も平均値。
 背だって低いし、顔だって地味でパッとしない。
 物語の主人公になんてなれない、どこにでもいる、村人A。それが私だ。

「はぁ……」

 重たいため息をついて、ベッドから起き上がる。
 部屋の隅に置いてある、アンティーク調の姿見は、おばあちゃんが大事にしていたという古い鏡だ。

 なんとなくその前に立って、自分の顔を映してみる。
 寝癖のついた黒髪に、少し猫背の姿勢。冴えない色の部屋着。
 鏡の中の私は、つまらなそうな顔でこちらを見返していた。

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