呪われた聖女は運命を覆したい

両陛下の要件

アラン様が見えなくなり、私はようやくホッと一息つけた。
私は殿下から離れて、頭を下げた。

「お話を合わせてくださり、助かりました。それより、どうしてあのような行動を?」

「お前が震えているように見えたから」

私の問いに、小さくそう呟いた。
私が思わず自分の手を見ると、ほんの少しだけ震えていた。
自分んでも気がつかないことを殿下は気がついていたんだ。
でもこのお方は、そんなことで味方をしてくれるような人じゃない気がする。

「お前は、アランの悪行を知ってるのか?」

——悪行。
そう聞いてすぐに思い浮かぶものが、私の中にはあった。
もしかして、殿下はアラン様が戦争を起こそうとしていることを知っているの?
だったらこのチャンスを逃すわけにはいかないわ。
私は周りを見渡して、誰もいないことを確認してから言った。

「はい。アラン様は戦争を起こそうとしています。また、裏では神の遺物(アーティファクト)の人体実験を行なっています。他にも、いくつかは知っています」

私の言葉に、殿下は少し考え込むそぶりをした。
それから先程のような冷たい目ではなく、穏やかな目で私を見つめた。
そして、少しだけ頭を下げた。

「威圧的な態度をとってすまなかった。貴女を信じよう。この後時間はあるか?」

まだ王子としての言葉遣いではないものの、先程とはまるで違う態度に私は唖然(あぜん)とした。
殿下が少し首を傾げたのを見て、ハッとした。

「え、ええ。ありますわ。ですが、私は両陛下を待たせておりますので…」

「なら、早くそちらの用を終わらせよう」

そう言って殿下は私の腕を強引に引っ張り、私が来た道を戻っていく。
初対面の人にいきなり剣を向けるし、言葉遣いも荒いけれど。
案外悪い人ではないのかもしれない。
そう思いながら、私は殿下についていった。
皇宮の中を早歩きで歩いていく姿を、メイドや執事たちが凝視(ぎょうし)する。
私は心の中でため息をついた。
本当に、強引なんだから。
そうして謁見室まで戻ってきて、殿下はノックもせず勢いよくドアを開けた。
私はその行動にギョッとする。

「ちょ、ちょっと…!いくら殿下とはいえ、ノックくらいしてください!」

「知らん」

知らんって…。
私はまたため息をつけながら、私たちに驚いた視線を向ける両陛下に頭を下げた。

「ただいま戻りました。突然出ていってしまい、申し訳ございません」

「いや、大丈夫だ。それよりも、スペネット侯爵嬢はセアと知り合いだったのか?」

皇帝陛下の言葉に、殿下はため息をついた。
それから、冷たい視線を両陛下に向けていった。

「そんなことはどうでもいいだろ。さっさと用を終わらせろ。俺は聖女と用があるんだ。さっさとしろ」

そんなせかさなくても…。
あと、口がとても悪いです殿下。
そんな殿下に向かって微笑んでいる皇后陛下が口を開いた。

「そんなふうに言わなくてもいいのに。まあ、そうね。セアがそういうなら、用を早く済ませてしまいましょうか。でも、セアも悪いところはあるわね。貴方が本題に入る前にいきなり入ってきたんだもの。ね?」

そう言って笑った皇后陛下に、殿下は罰が悪そうにそっぽを向いた。
それから、皇帝陛下が話を切り出した。

「スペネット侯爵嬢、我々からの要件はふたつだけだ。1番重要なのは、この間の調査青き血(ブルーランク)の結果のことだ。疑うようで申し訳ないが、本当に不正はしていないのだな?」

皇帝陛下の威厳に少し怖気付いたが、アミューズの温もりに気がつき私は視線を前に向けた。

「はい。不正は行なっておりません」

この時はどうしてか、神に誓うことなどできなかった。
皇后陛下のまるで見透かされているような目のせいだろうか?
それとも、皇帝陛下の威厳に怖気付いたからだろうか?
私には今こう言うしかなかったのだ。

「承知した。ならば、スペネット侯爵嬢には皇宮魔術師としての名誉を与え、帝国が管理することになる。そのことは知っているな?」

私はその言葉に頷いた。
皇宮魔術師とは、ランク5位以上の青き血(ブルーランク)を持つものか、魔力量が以上に多い者が所属できる帝国で名誉ある職業である。
その巨大な力を持つ者を監視するという目的もあるのだが。
基本的に皇宮魔術師は用意された魔術塔から出ることはできなくなる。
そのことについては、どうするつもりなのでしょう?
私は聖女として神殿にいる必要があるから。
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