婚約破棄の断罪裁判を開いた王太子、証言で全て自分の首を絞める【短編】
「あの、父上」
そのとき、近くにいたエドゥアルトの弟――ハインリヒ王子がすっと片手を挙げる。
「僕もシャルロッテ嬢の悪行を目撃しましたので、ここで証言をしても宜しいでしょうか?」
「おおっ! 弟よ!」
にわかに、エドゥアルトの顔が綻んだ。
弟からは、いつも「不貞をするな。婚約者を大切にしろ」と文句を言われていた。なのでうざったくて最近は没交渉だった。
だが、兄の危機に味方に付いてくれるとは、なんと素晴らしい弟だろうか。
「許可する」
国王が首肯すると、シャルロッテは涙目になってよろよろとゆらめいた。
「そんな……。ハインリヒ様まで……」
ハインリヒ王子は兄の不貞を激しく怒って、常に侯爵令嬢の味方をしてくれていた。
最近は、彼女がエドゥアルトから押し付けられている、王太子の公務や執務も積極的に手伝ってくれていた。
だが、所詮シャルロッテとは他人だ。
血縁関係のある兄のほうを取るのは、当然のことかもしれない。
「シャルロッテ嬢は……男爵令嬢に水をかけました」
「そうだ、ハインリヒ! ローゼはそのせいで風邪をこじらせて、一週間も寝込んだのだぞ!」
「で?」
国王は長男を無視して、次男に問いかける。
「侯爵令嬢が水をかけた理由を述べよ」
あんなに賑やかだった会場が、今では葬式のように静まり返っている。貴族たちは固唾を呑んでこの断罪劇を見守っていた。
「男爵令嬢が夏の大礼拝の前に兄上と性行為に及び、肉体を清めないまま礼拝堂に入ろうとしました。なのでシャルロッテ嬢が激怒して、バケツをひっくり返して大量の聖水を彼女にかけました」
次の瞬間、国王の血走った目がカッと見開かれた。彼の怒りのボルテージが最高潮に達しようとしていた。
この国は大陸中に広がっているイエザス教の発祥の地であり、王族は神官の役割も担っていた。
ゆえに王族は、厳格な戒律を死守しなければならないのだ。なのに王太子は、禁忌を犯したも同然だった。
だがエドゥアルトは、己の罪も理解できぬまま相も変わらぬ自信満々な様相で父に訴えた。
「父上、シャルロッテは王太子妃に相応しくありません。それどころか、誇り高き貴族としても素質が欠けているのではないでしょうか。
ですので、私はここに婚約破棄を宣言し、新たにこの素晴らしい令嬢――ローゼとの婚約を結ぶことを宣誓しますっ!!」
刹那、重い沈黙が場を支配する。
エドゥアルトは、己の声明に貴族たちが感激しているのだと悦に浸っていた。
しかし実際は、数多の軽蔑の視線が王太子に注がれていたのだった。