月が青く染まる夜に
そこへ私を呼び出した高玉課長が、迅和くんとほとんど同じ出で立ちで駆け寄ってきて出迎えてくれた。
道路交通設備課の課長である。ベテランさんだ。

「急に呼び出してごめんね、紗菜ちゃん。現場、ちょっとバタついてて」

私はヘルメットのつば越しに彼を見上げた。

「大丈夫です。大変そうですね」

クレーンがゆっくりとアームを動かし、砂利がじゃり、と鳴る。
風に安全テープがはためく。


────ここからが、本番だ。

私は持ってきたものをぎゅっと胸に抱いた。



テントの中に貼られたホワイトボードには、朝の工程表が大きく書き直されていた。
赤いマーカーでぐしゃっと上書きされた文字が、今日の混乱をそのまま物語っている。

私はバインダーを開き、まずは持参した作業名簿と現地の入構リストを突き合わせた。

協力会社が三社、まだ到着していない。遅延は二時間。クレーン作業の順序を入れ替えないと、全体が詰む。


無線がひっきりなしに飛び交う。

『高所班、待機』

『地上動線を確保、一般作業員は立入禁止ラインの外へ』

足元には黄色と黒の安全テープ。砂利が靴底に食い込む。


私は一緒にテントに入ってきてくれた高玉課長に声をかけた。

「課長、到着遅延の三社は午前のクレーン作業から外します。代わりに、機器外観点検、ケーブル接続部の目視確認を前倒しで回しましょう。工程表を差し替えます」

高玉課長はいったん考え込むように目を閉じたあと、短くうなずいた。

「それしかないね。助かる。紗菜ちゃん、今のボードに反映しておいてもらえる?」

「分かりました」

急いだように高玉課長がテントを出ていく。

私はホワイトボードに向かい、黒いペンで新しい流れを書き込んだ。


09:30〜:受電盤の外観点検
10:00〜:遮断器(CB)動作確認の準備
11:00〜:クレーン作業は到着後に再調整


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