月が青く染まる夜に
こういう風に事務作業メインの私たちが現場に赴くことは、時折ある。
現場の人たちだけではどうにもできないトラブルが起きて、その延長で事務手続きなどが必要になった場合だ。

時々不意打ちみたいにやってくるこの瞬間。
何度経験しても、緊張する。


エレベーターに乗り込みながら、鏡に映る自分をちらりと見た。

オフィスカジュアルのパンツスタイルに反射ベストやヘルメット、安全靴なんて少しだけ場違いだけど、これが今日の私の戦闘服だ。
やるしかないのだ。


同じく現場に向かう同僚が運転する車に揺られながら、窓の外の空がだんだん曇っていくのを眺める。

頭の中では、工程表の修正案をいくつも組み立て直していた。


••┈┈┈┈••


視界に、巨大な鉄塔と銀色の設備が並ぶ変電所が現れる。ゲート横の看板には大きく「定期点検実施中」の文字。
門をくぐると、重機の低い振動が足元から伝わってきた。


金属の匂い。無線のノイズ。作業員たちの声。

受付テントで入構手続きを済ませ、名簿にペンを走らせていると────

少し離れた場所で、聞き慣れた声がした。


顔を上げると、ヘルメットに作業着姿の迅和くんが、タブレットを片手に図面を指さしながら指示を出している。
真剣な横顔。普段は聞かない、ちょっと大きめの声。
風に揺れる反射ベスト。

私は一瞬だけ足を止めた。

現場の中でも、やっていける人なのか。


書類を抱え直したそのとき、彼がこちらに気づいた。
ただ、会釈するのみ。
私もなんとなく頭を下げて返した。


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