月が青く染まる夜に

馴れ馴れしいかと思って



なんだかちょっと気になる存在になったのは、彼がいつも背負っている黒いビジネスリュックに、じゃらりとぶら下がるキーホルダーを見つけてからだった。

その日は朝からバタバタしていたのか、普段はデスク下のカゴにきちんと収まっているはずのリュックが、床に投げ出されるように置かれていた。

見て見ぬふりもできたけれど、なんとなく居心地が悪くて、私は重たいそれを両手で持ち上げた。
思っていたよりずしりとくる質量に、少しだけ驚く。

カゴに押し込もうとした瞬間、金属が触れ合う小さな音が鳴った。

「…なにこれ」

かがみ込んだ先にあったのは、横断歩道で見かける歩行者用の信号機のミニチュアだった。
“押しボタン式”の文字。小さな赤と緑。
その隣には車両用の信号、さらに黄色い押しボタン本体までぶら下がっている。

まるで交差点を丸ごと切り取ってきたみたいだ、と思った。

こんな変なキーホルダーがこの世にあるんだ。
それが率直な感想だった。


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